オープニングが既にクライマックス
今回は、僕の最も好きな映画監督「クリストファー・ノーラン」の作品から、「ダークナイト(2008年)」と「TENET(2020)」について、特に「オープニングシーン」に焦点を絞って考察したいと思います。
この2本に共通しているのは、オープニングシーンがいきなりアクション・銃撃シーンから始まるという点。
一切の説明がないまま、淡々と進んでいきます。双方、約5分程度。
しかしこの5分で、クライマックス級の緊張感と、高揚感を感じることができます。
他の映画と比べ、この2本のオープニングシーンはどう優れているのかを考えます。
まずはオープニングシーンを見てみる
何はともあれ、該当のオープニングシーンをまずは見てみましょう。
ダークナイト冒頭シーン
TENET冒頭シーン
これに加えて、今回は比較対象として同じアクション映画である「ミッション・インポッシブル2」のオープニングシーンを見てみます。
ミッション・インポッシブル4冒頭シーン
こうして見比べると、同じクライム・スパイアクション系映画でも、ここまでオープニングに違いが出るのか。と思うのではないでしょうか。
こうして他の作品と見比べることで見えてくる、「ノーラン節」の特徴があります。
こちらを考えていきましょう。
比べてわかる「4つの特徴
ミッションインポッシブルと見比べてわかる、「ダークナイト」「TENET」のオープニングシーンの特徴として以下が挙げられます。
- 1つの事象(ケース)の完結=オープニングとなっている
- ギャグが無い
- 緊張感を持たせるBGM
- 引きの画を効果的に使う
といったところ。もちろん会陰技への細かい指示や、緻密に練られた脚本・セリフというのも要素としてありますが、今回は構造に着目して考えていきます。
まず最初は「1つの事象(ケース)の完結=オープニングとなっている」について
ミッション・インポッシブルでは、アサシンの男のアクションシーンから、トムのいる刑務所での暴動シーンへと移り変わります。
ダークナイトでは「銀行強盗」、TENETでは「オペラハウスでのテロ」が始まってから終了するまでの1ケースが始まり、完結するまでがイコールでオープニングシーンとなっています。
オーディエンスは、この1ケースの中での登場人物の立ち位置、キャラクター、映画全体の雰囲気を感じることができます。
次に「ギャグが無い」について
ミッション・インポッシブルでは、ドアを開けてほしいトムと、開けたくないサイモンのやりとりや、部屋から出てきた大男のあとずさりするトム…など、クスッと笑えるような、ユーモアのあるシーンが入っています。
これは、ミッション・インポッシブルという映画が、こうしたユーモアを織り交ぜている映画ですよということを、オーディエンスに理解させるのに効果的です。しかし、緊張感は欠けてしまいます。
ダークナイト、TENET共に、こうした笑えるシーンというのはありません。あのオープニングシーンでクスッと笑える箇所があるという方がもしいたら、サイコパス診断テストを受けてみるといいかもしれないです。笑
ダークナイトとTENETでは、淡々とプロの作戦がこなされていき、ギャグシーンがないため、非常に緊張感が高まります。
次に「緊張感を持たせるBGM」について。
ミッション・インポッシブルでのBGMも頭のアサシンのやりあいシーンでは、多少の緊張感はあるものの、よくある戦闘系BGM。その後の刑務所シーンではクラシックが流れるなどしており、緊張感はありません。
ダークナイトとTENETではオーディエンスの不安を煽るようなスタイルのBGMを使っており、これが効果的に緊張感を押し上げます。かつ、クライマックスのような焦燥感を煽る作りにもなっており、映画開始から5分で一気に、映画世界に引き込まれます。
次に「引きの画を効果的に使う」について。これが最も美しい「ノーラン節」の真骨頂ではないかと思います。
ミッション・インポッシブルでは寄りの画がほとんどで、登場人物の行動や、表情を画面中央に据えています。オーディエンスとして、「映画」を楽しむための構造です。
しかしダークナイトとTENETでは、カメラを引くシーンを効果的に使います。
銀行強盗シーンでは、引きの画から背を向けて立っている男にカメラが寄っていき、男が車に乗っていきます。
このシーンで、観客はこの男と共に車に乗っていくような感覚へと導かれます。
その後の銀行侵入シーンでも、犯罪者たちをカメラが後ろから引きの画のまま追っていくことで、観客も銀行へ入っていくような感覚へと導かれます。この時、銀行内の奥行きが非常に効果的に作用しています。
そして最後には、口にスモークグレネードを加えさせた店長が引きの画になっていきます。これは観客も一緒にバスに乗って銀行から脱出するような感覚を持たせます。
TENETも同じです。
冒頭オペラハウスへ侵入していくシーンでも、引きの画のままカメラが追従していきます。
侵入後も、カメラが追従。テロリスト側のカメラワークも同じような作りになっています。オーディエンスも現場に参加しているかのような圧倒的な緊張感が発生するように作られているのです。
まとめ
今回は、クリストファー・ノーラン監督の映画オープニングシーンの作り方の「すごさ」を考察しました。
僕は、とことん映画にオーディエンスを「引き込む」というノーラン監督のオープニングシーンの作り方がとても気に入っています。
この冒頭の5分のシーンを見るだけでも、非常に価値のある映画だと思います。本編全部を見る気がないという方でも、ぜひこの5分はみてみて欲しいと思います。
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