「栄華からの転落」その底には花
今回は2011年公開のノルウェー発のクライム・サスペンス映画「ヘッドハンター」をレビューしマス。
筆者評価:★4.2
出演:アクセル・へニー/ニコライ・コスター=ワルドウ
監督:モルテン・ティルドゥム
Amazon Primeビデオでたまたま見つけたノルウェー映画。
これまでノルウェー映画を見たことはありませんでしたが、試しに見てみたところ非常に高クオリティの映画となっていました。
特に主演のアクセル・へニーのキャラクターと演技が非常に良かったです。
ざっくりあらすじ(ネタバレ)
人材引き抜き屋(ヘッドハンター)として財を成している主人公ロジャー・ブラウンは、身長168センチで、ノルウェー人としては低身長の男。
超豪邸に、美女と住んでいます。
妻は子供を欲しいと言いますが、ロジャーは欲しがりません。
ロジャーは実は美術品泥棒としての裏の顔があり、これで得た巨万の富を使って裕福な暮らしをしていました。
共犯者はセキュリティ会社社員の「オーヴェ」。彼に連絡をすることで、一時的にターゲットの家のセキュリティを止めることができます。
ある日ダイアナの開いた画廊でのパーティーで、GPS関係の会社を経営していたという「クラス・グリーヴ」という男を紹介されます。
後日ダイアナから、「彼の家に幻の名画があるらしい」と聞いたロジャーは、彼の家に侵入することを決めます。
クラスの家で盗みを終えたロジャー。
妻と話そうと電話をかけたところ、クラスの部屋から呼び出し音が鳴ります。
ないはずの妻のスマートフォンが、クラスの寝室の乱れたベッドの上にありました。
妻のダイアナとクラスは、浮気をしていたのです。これにショックを受けたロジャーですが、自分が盗みをしていることを知られるわけにはいかないので、このことをダイアナに言えません。
この後ロジャーが車で帰路についていると、ロジャーの浮気相手である「ロッテ」が待ち伏せをしており、「会いたかったわ」と抱き締められます。
もう連絡してこないでくれと言い放ったロジャーは帰宅して行きます。
後日、朝出勤しようと車に乗り込むと、車の中にはオーヴェの遺体がありました。座席に毒針が仕込まれていたのです。
遺体を隠すために湖まで向かうロジャー。遺体を沈めようとしたところオーヴェは実は瀕死で、生きていたことがわかります。
一旦小屋に連れて行ったロジャー。「病院へ連れて行ってくれ」とオーヴェは頼みますが、そんなことをすれば、事が大きくなってしまいます。
もたもたするロジャーに痺れを切らしたオーヴェは、銃を向けます。
ロジャーもまた銃を向け、撃ち合いになりオーヴェは死んでしまいます。
そんなロジャーの元に、クラスが追ってきました。これによりロジャーは「クラスが自分の命を狙っている」と気が付きます。
ここから車を乗り越えたり、肥溜めに潜ったり、犬に噛まれたり、トラックに車ごと轢かれたり、髪の毛を全剃りして剃刀負けしまくったり。
途中、ロッテの家に逃げ込んだロジャーはそこで真相を知ります。
クラスの目的は、「パスファインダー社」の技術を盗むことでした。
ヘッドハンターであるロジャーにパスファインダーを紹介してもらうため接近していたのです。
最初は愛人のロッテを介して接近するつもりでしたがこれは失敗。その後はレアな絵を持っているということをダイアナに言うことで接近しようとしましたが、まさかのロジャーに盗まれた事によって頓挫。
盗まれた絵画から足がつくことを嫌い、ロジャーを抹殺しようと目論んでいたのでした。
その後もとにかく満身創痍で逃げ回ったロジャーは、妻に再び会う事がきました。
そこでわかったのは、ダイアナはただ単に寂しさを埋めるためにクラスと寝てしまったということでした。
ダイアナは、今ロジャーに何が起きているのかを理解していませんでした。
ロジャーは全てをダイアナに説明し、ダイアナと結託。
クラスを罠に嵌めることで、普通の暮らしを取り戻すのでした。
コンプレックスとの戦い
本作においてロジャーが闘っているのは、殺人鬼からの攻撃ではなく、コンプレックスとの戦いではないでしょうか。
ロジャーは見た目がいいわけではなく、身長が低いことをコンプレックスに思っています。
しかし美しい妻ダイアナを失いたくない一心から、ダイアナと自身の間のコンプレックスの差を埋めるために絵画泥棒をしてきました。
これに加えて、ダイアナの愛が少しでも自分から離れることを恐れ、子供をもうけようとしませんでした。
またダイアナに近づいてきたクラスは、ロジャーが抱くコンプレックスを満たしているイケメン高身長。
実はこれとの戦いだと思います。
そしてこの「コンプレックスとの戦い」は、ダイアナを手にするか失うかによって決まります。
彼にとって、警察に全てを話して命を守ることよりも、糞溜めの中に潜るよりも、ボロボロになりながら別人になりすますことよりも、彼のコンプレックスを埋めることが優先順位の上位に置かれているのです。
本作は2011年の作品ですが、この異常なまでのコンプレックスへの執着は、SNSの普及によってますます加速しているように感じます。
株式会社ネオレアの調査(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000048437.html)によると、「ムダ毛は恋人に振られる」や「貧乳は恋愛対象外」などの広告が打たれており、こうした広告に対しての不快度はかなり高いようです。
多様性の受容が叫ばれている現代の中で、このようにコンプレックスの創出や分断を煽る行為は増えてきています。
あなたが、もしくは僕がロジャーのようになる可能性も十分にあり得ます。
打ち消すのは愛
コンプレックスと共に生きながら、感じている劣等感を別のもので一時的に埋めることはできても、根本の解決には至りません。
だからこそロジャーは常に絵画泥棒をして金を得、それを妻に当てることで埋めてきました。しかしそれは永久的に続くもの。
ロジャーの身長が突然高くなったりしないと埋まらない溝です。
しかしロジャーは生命の危機に陥り、さらには妻を失いかけたその先で、妻の心中を知る事ができました。
妻はロジャーのことを本当に愛していました。お金や地位ではなく、ロジャーのことをただ愛している事がわかります。
このタイミングでロジャーが感じていたコンプレックスは消え去ります。
映画冒頭では「僕は168センチしかないから、他のことで補っている」という語りがありますが、映画の最後には「僕は168センチしかない。それでいい。」に変わっていることは、妻からの真実の愛を受け取った事による変化なのです。
コンプレックスを打ち消すには、本人の努力ではなく、周囲の愛が必要だと言う事がよくわかります。
まあ正直、身長168センチなだけでここまでコンプレックスコンプレックスってなっている映画は、日本人が見るとまたちょっと違う気がしますが…。
まとめ
今回は2011年のノルウェー映画「ヘッドハンター」をレビューしまシタ。
本作は始まってから、幕引きまでかなりのスピード感を持って物語が進行するため、飽きる事なく見る事ができます。
ブロンドヘアーにスーツのところから、どんどんと汚れ傷ついてき、最終的にはカミソリ負けしまくった傷だらけの坊主にまでなってしまいます。
このロジャー最終形態とも言える坊主状態の彼は、画としての力が素晴らしく、間違いなくノルウェー映画に対する評価を上げてくれたと言えるでしょう。
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