控えめな演出。練りに練られたサスペンス。
今回は2013年公開のサスペンス映画「プリズナーズ」をレビューしマス。
筆者評価は★4.3
出演:ヒュー・ジャックマン/ジェイク・ギレンホール/ポール・ダノ
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
宗教をテーマとして、「囚われたもの」を描いたサスペンス作品。
キャストも非常に豪華で、それぞれの演技も素晴らしい良作でした。
特にロキ刑事を演じたジェイク・ギレンホールの演技には脱帽です。
ざっくりあらすじ(ネタバレ)
ドーヴァー一家と、お隣さんのフランクリン・バーチー一家のふた家族は、集まって感謝祭のパーティーをしていました。
しかしその最中、両家の幼い娘2人が失踪してしまいます。
失踪直前、家の前に不審なRV車が停まっていたことから、その車の持ち主アレックス・ジョーンズを逮捕しますが、彼は発達障害者であり、10歳程度の知能しかありませんでした。
物的証拠なども何も出なかったので、保釈の期限を迎えてしまいます。
しかし、アレックスが犯人だと信じて疑わない、女の子の父親ケラーは、アレックスを拉致し、拷問を加えて吐かせようとします。
その頃、ロキ刑事は過去に性犯罪を犯したことのある人物をあたって捜索を続けます。
性犯罪歴のある神父の家に行くと、地下室に男のミイラがありました。
別件ではあるものの、犯罪者ということで逮捕。しかしそこに少女らの手がかりはありませんでした。
事件の解決を祈る会に出席したロキ刑事。その場にいた挙動不審な人物を怪しんだロキ刑事ですが、その場から男は逃走。逃げられてしまいます。
後日この男について情報が入り、逮捕に漕ぎ着けたロキ刑事。彼を尋問しますがアレックスのような発達障害者で、何も情報が出てきません。
尋問の途中で感情的になったロキ刑事の隙をつき、ロキ刑事の拳銃を奪った男は、自殺してしまいます。
ロキ刑事は、毎日どこかへ姿をくらますケラーに不信感を抱き、彼を捜索。
すると廃屋に辿り着き、そこで変わり果てた姿のアレックスでした。
その頃ケラーは、アレックスへの尋問の末、アレックスの育ての親・叔母であるホリーの家に娘がいることを突き止めます。
事件の犯人はホリーでした。
ホリーは「神に戦いを挑む」という考えから、子供を消し去り混沌を呼ぶことを信条としている、カルト的考えを持っている人物でした。
子供を攫ってきては、薬物を注入し続け、発達障害にしてきていたのです。
アレックスや、拳銃自殺した男も被害を受けてきた子供達でした。
ケラーは銃を向けられ、抵抗できずに地下の洞穴に幽閉されてしまいます。ケラーはそこで、娘の持っていたホイッスルを発見し、かつてそこに自分の娘がいたことを悟ります。
その頃ロキ刑事は、アレックスが見つかったことを報告するため、ホリーの家へ向かいます。
家に着いたロキ刑事は、飾ってある写真の中に写っている男性が、あの神父の家でミイラになっていた男が付けていたネックレスと同じものをつけていることを発見。
ホリーが事件に関わっていると踏んだロキ刑事が恐る恐る部屋を進んでいくと、そこには誘拐された女の子に薬物を注入するホリーが。
これを射殺したロキは、事件を解決。その場を後にしようとすると、背後からホイッスルの音がするのでした。
「宗教」を軸とした3つの立場
日本語予告だと、「子供が突然誘拐されたらあなたならどうする?」というようなキャッチコピーで売り出されている本作。
ケラーの目線に合わせたキャッチコピーとなっていますが、正直この映画に合わないキャッチコピーですね。
この映画は宗教を軸とした3つの立場で構成されています。
ケラー:敬虔なキリスト教徒。感謝祭には昔ながらの鹿肉を用意する男。
ホリー:反キリスト教主義。神に戦いを挑むカルト。
ロキ:名は北欧神話の神。異教の人。指にはフリーメイソンのリング。
キリストを「信じて疑わない」ケラーは、アレックスが犯人だと信じて疑わず、ボコボコに殴ったり熱湯を浴びせたり、常軌を逸した行動に出ます。
これは、ケラーの良くも悪くも「盲信する」性質を表しています。
対してホリーは、「神に戦いを挑む」という反教精神を持っており、皮肉にも信心深いケラーの娘をターゲットとしてしまうのです。
この両者を俯瞰的に見て、操作を進める刑事「ロキ」は、その名が北欧神話からきていることや、フリーメイソンの指輪をしていることなどから、「キリスト教」に囚われた(ここがプリズナーズという題名にかかってくる)価値観を懐疑する存在として描かれています。
被害を受けるのは無垢な子供
大人たちの「宗教戦争」の被害者となるのは、まだ何の色にも染まっていない、無抵抗な子供。
そのことを表すかのように、本作での犠牲となるのは子供たちです。
アレックスや「不審な男」も、少年期に誘拐され、発達障害児とさせられた人物でした。
にもかかわらず大人たちは、罪なき子供たちに対しても拷問をしてしまうのです。
この、非常に勝手な大人の都合に振り回される悲しき存在として、「子供」が機能しています。
ジェイク・ギレンホールの演技
本作は特に、ジェイク・ギレンホールの演技が輝いていました。
特に有名なシーンとしては、この「怒る」シーン。
上官の前では冷静なポーカーフェイスをしながら、自席に戻ってからの爆発的な激怒。
表情自体は変わらず、セリフも特にありません。
しかし行動と息遣いで、計り知れないほど激怒していることが伝わってきます。
本作のジェイクは、特にこの「息」の演技が秀逸。
何をいっても頭ごなしに怒ってくるケラーに対する、ストレスを多分に含んだため息や、首の強張りなど「セリフ外」の演技に注目です。
まとめ
今回は2013年公開のサスペンス「プリズナーズ」をレビューしまシタ。
控えめな演出によって、とても現実的な世界観を楽しむことができます。
「盲信」することによって、気がつけば自分が化け物になっていってしまう。
そしてその被害者は子供たちである。
そんなメッセージを感じれる映画でした。
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