人は海から、海は星から、星は宇宙から
今回は2019年公開のアニメ映画「海獣の子供」をレビューしマス。
筆者評価は★4.0
出演:芦田愛菜/蒼井優/森崎ウィンなど
監督:渡辺歩
米津玄師による主題歌、「海の幽霊」がyoutubeの再生回数1億回を超えるなど、大きな盛り上がりを見せた「海獣の子供」。
ファンタジーで美麗な映像や、魅力的なキャラクターとは裏腹に、非常に哲学的・科学的な内容を盛り込んでいる作品でした。
「難しい」という意見がかなり多く、賛否両論呼んでいるようですので、良い点と良くない点を並べて考えてみます。
ざっくりあらすじ(ネタバレ)
湘南に住む中学生、るかは夏休み初日に部活のメンバーといざこざになり、部活を休部することに。
普段は行かないが、なんとなく足を運んだのは父親が働いている水族館。
そこで出会ったのは、「海」という少年。水槽で泳ぐ彼は、ジュゴンに育てられた「海獣の子供」だという。
海には兄「空」がいて、この2人とるかは親密になる。
しかし空は、長い海中生活のため、余命が残りわずかでした。るかは空から「隕石のかけら」を預かることに。空は死んでいきました。
海と共に鯨の「ソング」に導かれ、海中に潜っていく2人。泳いでいると、超巨大なザトウクジラに飲み込まれます。
ここから「誕生祭」が始まり、るかは宇宙と一体化します。が、海が途中でるかの中にある隕石を回収し、光となって消滅します。
るかは気絶。目を覚ますと、両親が船で回収に来ていました。
ヨリを戻した両親は、新しくるかの兄弟を授かりました。るかにへその緒を切って欲しいと頼む母親。
その瞬間、「命を断つ音がした」と感想を残します。
設定や反応に難アリ
大前提である、「海獣に育てられた少年」という設定。これ自体は、ポケモンなどの映画や、ディズニー作品などでも「動物に育てられた」系は良くあるものですので、悪くはないです。
しかし、本作の舞台はリアルな日本、湘南。魔法やレーザービームの登場する世界ではなく、2019年の日本なのです。
仮に現代、ジュゴンに育てられた少年が確保された場合、どうなるでしょうか?
SNS等で拡散され、大きなムーブメントになるでしょう。加えて、水族館に捕獲権はないはずです。
病院に移送されたり、児童相談所に移送されたり。もしくは日本ではなく国連等に連絡がいくかもしれません。
なぜ、こんな稀有で異常な存在が、特に注目もされず「湘南の水族館」で暮らしているのか。
こういったサイド設定とでもいうべき部分が乱雑であり、一歩引いた視点で本作を見ることになります。
そもそも、この2名は「フィリピン」で確保されたと言います。
なぜ、フィリピンで確保されたにも関わらず、日本に来たのでしょうか。
それに加え、ジュゴンに10数年育てられたにもかかわらず、日本語をペラペラと話すのはなぜなのでしょうか。
むしろこの部分をしっかりと描くべきではなかったでしょうか。
このほかにも、一人娘であるるかが、海へ出て何時間も帰ってこなかったり、危険な目に遭っているにも関わらず、そこまで焦る様子のない両親の反応も、不自然です。
こういった不自然の積み重ねが、本作へ入り込めなくなる原因かと考えられます。
生命の起源を辿る
結局のところ、「海」と「空」は、宇宙からの精子(隕石)が地球の子宮(海)に落ちたことによって生まれた存在。つまり人間ではなかったわけです。
彼らの使命は、来るべき誕生祭に向け、ゲストを迎え入れること。
そのゲストが、ルカだったわけです。
作中、海洋学者の「アングラード」が「人間は、宇宙の10分の1しか観測できない。90%は未知の物質でできていて、それを人間は観測できない」と話していました。
そのため、人間の技術では空と海が人間でないことを証明できませんでした。
人間は全て海から来ています。海は、地球という惑星。惑星は宇宙から来ています。
つまり、人間と宇宙は「同じものからできている。」のです。
「誕生祭」で、宇宙からの精子を受け取った海が、生命を誕生させ、それを海が吸収します。こうやって生命は保たれている、ということですね。
芦田愛菜の演技力がすごい
本作、なんといっても主演の芦田愛菜の声優力がすごかったです。
俳優が声優をするとどうしても棒読み感が出るのですが、全く不自然ではありませんでした。
女優としての演技ではなく、声優としての演技ができるということで、その演技力の幅に驚かされました。
特に息遣いや、泣きの演技では声優のそれと全く遜色ありませんでした。
また、内容がかなり詩的て哲学的な本作ですが、芦田愛菜本人がかなり頭が良く哲学的な思考を持っているので、それを理解した上で本作を見ることで、ストレートに言葉が入ってきます。
海洋恐怖症にはきつい!
深い海に恐怖を覚えたり、海の下に大きな魚影が見えたり、大きな建造物が沈んでいたりするのを見ると、ゾゾっとする、それが「海洋恐怖症」なのですが
本作は、ジンベエザメの大群が泳いできたり、ザトウクジラにしたからがばっと飲み込まれたり、海洋恐怖症には耐え難い映像が連続します。
そこらへんのホラーよりよっぽど怖いです。
もし海洋恐怖症の友人がいたら、「面白い映画あるよ」といって誘ってみてください。
リアクションがかなり楽しめると思います。
まとめ
今回は2019公開の「海獣の子供」をレビューしまシタ。
制作期間5年とも言われる超美麗映像と、CGとアニメーションを融合した新しい映像は、隅から隅まで楽しめるかと思います。
ストーリーは、哲学的・文学的で難解ですが味わい深いものです。
もう2度とこない「夏休み」を感じさせてくれる街並みと、広大な海で繰り広げられるスペクタクルな物語をぜひ楽しんでください。
コメント