そこにセオリーなどない災害
今回は2007年公開のスリラー映画「ノー・カントリー」をレビューしマス。
筆者評価は★4.8
出演:トミー・リー・ジョーンズ / バビエル・バルデム / ジョシュ・ブローリン
監督:コーエン兄弟
2007年度アカデミー賞で「作品賞」「監督賞」「助演男優賞」「脚色賞」を獲得した名作中の名作です。
友人におすすめされて鑑賞しましたが、正直言って衝撃的に良作でした。
人並みな感想にはなりますが、やはり名作と言われるだけの超絶クオリティの映画ですね。
特にサイコパスのアントン・シガーを演じたバビエル・バルデムの演技は、言葉では言い表せません。
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ざっくりあらすじ(ネタバレ)
さんざん他のサイト等で詳しくネタバレされておりますので、かなりざっくりのあらすじだけ記載します。
帰還兵で狩人の「モス」は、狩りの途中でマフィア同士の麻薬取引・抗争現場の遭遇。
マフィアらは全滅しており、残された200万ドルの入ったバッグをトンズラします。
これにより、メキシコマフィアと、「アントン・シガー」というサイコパスの殺し屋から追われることに。
色々頑張って逃げますが、最終的にモスはシガーにやられてしまいます。
モスの行方とシガーの足取りを追ってきていた高齢の保安官「ベル」は、凶悪化し理解が及ばない昨今の犯罪にはついていけないとの理由で引退を決意。
シガーは、モスの妻である「カーラ」の元を訪ねます。カーラを始末した後、車でその場を後にしますが、突然交通事故に遭います。
左腕から骨が突き出るほど重傷を負うシガーですが、冷静にその場を後にします。
ラスト、ベルは妻に昨晩見た夢の話を語るのでした。
映画全編「演出」ナシ
本作は、全編を通してBGMやSE(サウンドエフェクト)がありません。
BGMやSEは通常、映画を制作する上で非常に重要になるものです。
しかし、本作ではこれらを頑なと言えるまでに排除しています。
これに加えて、「映画的なセリフ」などが全て排除されています。
息使いや視線、汗、所作による音。こういった情報から全てを読み取れます。
「映画的なセリフ」とは、鬼滅の刃などでいう、「肺が痛い!凍える!このままじゃ負ける!」みたいな、説明的なセリフや、誇張された表現などです。
実際に目の前でこの出来事が起きた時、こうする。というようなリアリティのある演技を一切の無駄を排除したミニマリスト的な映画です。
これこそ僕が求めていた映画だ、とも言いたくなる本作は、読み手に多くを委ねてくれます。
アントン・シガーという災害
何と言っても本作の最大の魅力は、サイコパス「アントン・シガー」。
超低いバリトンボイスにこのビジュアル。
会話は全くままならず、それはコミュニケーションと呼ぶには程遠いもの。
殺すか、殺さないかはシガーにとってプラスとなるか否かにかかっています。
どちらともつかない存在の処遇はコイントスで決め、その結果に忠実に従う。
相手がどれだけ無力な老人であろうが、身分が高かろうが関係なく、なんの感情もなく処分します。
処分時に使用する武器は「家畜用ピストル」。シガーにとって、「処分するものか否か」という考えでしかないのです。
HUNTER×HUNTERで、人間の女性がキメラアントという化け物に助けを乞うシーンがあります。
この時、キメラアントは以下のように答えます。
ステーキやフライドチキンを食べる時、その命に同情し、心を痛めながら食べるでしょうか。
シガーやキメラアントにとって、人間も全く例外ではありません。
心を鬼にして…ではなく、心そのものの形状が、違うのです。
それはいわば、避けようのない「死」という災害。
災害の前ではその結果を受け入れるしかないのです。
この不条理は、世界の摂理。世界が存在する以上、こういった不条理は避けられません。
従ってシガーもまた、ラストシーンで「交通事故」という避けようのない不条理の餌食となるのです。
それを理解しているシガーは、何も焦る様子もなく、結果を受け入れて歩を進めるのです。
老人には住みにくい世界
本作、「ノー・カントリー」の原題は「No Country For Old Men」。
意味は、老人には生きにくい国。
本作の主人公は、実はこのトミー・リー・ジョーンズ演じる「ベル」。
過去のセオリーや、「人間的な犯罪」から逸脱していく現代の犯罪。
麻薬や金のために、大切なものを捨てて日々命を落としていく人々。
こういった状況・新世界は老人にとって、理解し難く、もはやついていけません。
本作でいえば、マフィアはもちろんのこと、マフィア同士の抗争があった現場から200万ドルを持ち帰り、愛する妻を危険にさらす「モス」の行動もまた、老人からすれば全く理解が及びません。
この狂いゆく世界を実に写実的に描き出しています。
ベストシーン
本作で僕が最も好きなシーンはこの、コイントスシーン。
アントンのクレイジーさもさることながら、店主のどんどんと曇ってゆくかお、理解のできない存在に対して気持ちが悪くなって具合が悪くなっていく様子。
この演技のグラデーションが素晴らしいです。
吹き替え版でも見ましたが、あれはひどい。絶対に字幕版で見てください。
まとめ
今回は2007年公開のスリラー「ノー・カントリー」をレビューしまシタ。
圧倒的良作。
昨今の流れである「超説明的映画」からすると、説明が削られているため、一体なんなのかわからない…。という肝臓を抱く人が多いようです。
映画に対して免疫がない人は、このような感想を抱くことが多いでしょう。
映画好きを名乗るのであれば絶対に見ておきたい傑作です。
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