兵士の心情・戦う目的
評価★3.8(そこそこ)
今回考察するのは、2022年3月18日公開のスウェーデン発の映画、「ブラック・クラブ」。
戦争が始まったことによって、荒廃してしまったスウェーデンが舞台。
スウェーデンは、イギリスとロシアの間にある縦長の国。
めちゃくちゃタイムリーです。今、ウクライナ戦争が起きており、世界中が注目している中での本映画公開という事で評価と注目が押し上げられるんじゃ無いでしょうか。世界最大のマーケティング成功例ですね。
ざっくりあらすじ(ネタバレ)
娘と共に車で移動してる母、エド。渋滞にはまっていると、前の方から銃声が。
後部座席で毛布を被り、やり過ごそうとしますが、バレてしまいます。
軍服姿の男に娘は連れ去られ、エドは顔面を殴られて気絶。
数年後。エドは軍人となっていました。本部から招集を受け、向かいます。
集められたのはエド、ニールンド中尉、カリミ伍長、フォルスベリ大尉、マリック、グランヴィックの6名。
この6名の共通点は、「アイススケート経験者」ということでした。
敵の包囲網を掻い潜り、凍った海上を200kmスケートで渡り、アーダー基地に「戦争を終わらせることができるカプセル」を届けるという任務でした。
アーダー基地に娘がいるという情報を受けたエドは、向かうことを決意しました。
黒い蟹のように移動する、ということで「ブラック・クラブ」作戦と名付けられました。
道中、フォルスベリ大尉が氷の下に落ち、凍死。カリミが敵勢力の老夫婦と戦闘し死亡。マリックが自害。グランヴィックが戦闘中、エドが落としたグレネードによって死亡。というようにどんどん減っていき、ニールンド中尉と二人きりになります。
途中、輸送しているブツが「生物兵器」であると発覚します。
これを輸送し、発動することによって、敵を壊滅に追い込むのが、この任務の正体だったのです。
ニールンド中尉は、これを知り、任務を放棄。ジェノサイドを阻止しようとし、カプセルを持って海に捨てようとします。
しかし娘にどうしても会わなければならないエドは、ニールンド中尉を止めます。
2人とも満身創痍になったところで、自軍の部隊に回収されます。目を覚ますと、アーダー基地でした。エドは凍傷で指などを失いながらも、任務を遂行。
しかし、上官から「娘がこの基地にいるというのは、嘘。任務遂行には動機が必要だから、必要な嘘だった」と明かされます。エドは取り乱します。
エドは、娘が他のどこかで生きているとするのであれば、あの生物兵器を使用すると、娘にも被害が及ぶかもしれないと考え、裏切りを決意。
ニールンド中尉と共にカプセルを外へ持ち出し、グレネードを持って自分もろとも破壊するのでした。
兵士の心情
今回作戦に参加した兵士にはそれぞれ思いがありました。
エドは娘に会いたいという気持ち。カリミは戦争を終わらせて婚約者の元に帰りたい。マリックは家具屋さんをやりたい。彼らは元々市民であり、軍人としての歴が浅いです。
戦争という大きい障害を排除しないと叶わない望みです。
途中カプセルの中身が生物兵器だとわかった際に、兵士たちは狼狽えます。
これを使用すれば、民間人の女子供関係なく全員が死滅することになります。これでいいのだろうか。と考えます。
しかしエドにとって、そんな「知らない人」はどうでもよく、ただ娘に会いたいだけ。
エドは娘に会えるのであれば、その生物兵器を肯定します。
戦争の正当化は、結局個人レベルの動機と繋がっているということが、よくわかるシーンです。
現在ウクライナで起きている戦争でも、プーチンの中で正当化されていることによって、ここまでの被害が起きています。
なぜエドは助かった?
映画冒頭、渋滞している車列の前の方から、敵軍が侵攻してくるシーンで
前から歩いてくる軍人たちは、民間人を容赦無く射◯していきます。
エドの運転する車のフロントに撃たれた人が倒れてもきます。
その後その軍人らに見つかるエドと娘。
なぜかこの2名は射◯されず、エドは殴られて気絶します。
なぜこの2名は射◯されなかったのでしょうか。
そもそもあの軍人の目的はなんだったのでしょうか。
襲撃されていたのは、トンネル内でした。
おそらく、あのトンネルが侵攻作戦において重要なパイプラインとなっていたと考えられます。
あのトンネルを制圧することが、作戦成功のカギであったわけです。
その急襲に巻き込まれたのがエドと娘です。
ではなぜエドたちは助かったのでしょうか。
撃たれた人々は、車から降りて逃げようとしていました。
エドは車に残り、動きませんでした。
もし娘が言うように、車から降りて逃げていたら撃たれていたでしょう。
逃げると言う行為は、反抗的な態度に当たります。動いている状態は、危険因子とみなされます。警察も、犯罪者に対して「Freeze!(動くな!)」とまずは言いますよね。
つまり、相手の軍人にはこういった命令が出ていた可能性があります。「動くものは撃て。動かないものは撃つな。」
軍人は命令の通り動きますから、この可能性が非常に高いです。
これによって、エドが射◯されなかったことの説明がつきます。
軍人的思考
映画を通して、リアリティがあって良かったのは「軍人」の思考。
自分や仲間よりも作戦を優先する思考です。
そもそもこの作戦氷上を200km移動するというもの。参加することで命はほとんどありません。
道中、大尉が氷の下に落下した際も、カプセル回収を最優先したり、エドが落ちそうになった際も、まずはカプセルを回収します。
仲間が不審な動きをとった際も、その仲間を「処分するか、しないか」という会話がなされるなど。
しっかりと最優先事項をその場で判断し、情に流されない軍人的判断が描かれており、最高でした。
エドは、いつでも母だった
エドは軍人となりながらも、いつでもその動機は「母」でした。
そういった意味で、軍人としての振る舞いはしているものの、いつまでも「母」だったと言えます。
作戦参加を承諾したのも、娘のため。生物兵器を破壊したのも、娘のためです。
道中さまざま襲い掛かる出来事にも、常に娘を天秤にかけて行動。
無事かどうかもわからない娘の「無事」のため、果てていくのです。
まとめ
今回は、戦争映画の「ブラック・クラブ」を考察しました。
作品説明を見ると、リベンジもののような雰囲気がするのですが、現実離れしたアクションなどがあるわけではなく、もっさり、どっさりとした戦闘が繰り広げられ、そこそこ現実的な戦争映画となっています。
ロシア-ウクライナ戦争の最中の公開ということもあり、重ねずにはいられない映画です。
見るなら「今」でしょう。
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