「現実さ」と「映画さ」のバランスの取れた良作
今回は、2016年公開のスリラー「スプリット」をレビューしマス。
筆者評価:★4.1
出演:ジェームズ・マカヴォイ/アニャ・テイラー・ジョイ
監督:M・ナイト・シャラマン
ホラー・スリラーの巨匠で、独特な世界観の映画を世に出してきているM・ナイト・シャラマン監督の作品です。
有名な作品としては「シックスセンス」や「アンブレイカブル」「オールド」が挙げられます。
女優に僕の好きなアニャ・テイラー・ジョイやトーマシン・マッケンジーを起用してくれているので、その辺りのセンスもとっても好きな監督です。
本作は多重人格者役を演じたマカヴォイがMVPで、それはこの映画を見た多くの人に共通しているのでは無いかと思います。
ざっくりあらすじ(ネタバレ)
普段、周囲との距離をとっているケイシーでしたが、今日はクラスメイトの誕生日パーティーに招かれたので参加していました。
しかしやはり居心地の悪い彼女は帰ろうとします。
するとクラスメイトの父親が車で送ってくれることに。
ケイシーと、クラスメイトのマルシア、クレア、が車に乗り込んで待っていると、運転席に見ず知らずの坊主頭の男が乗り込んできます。
マルシアが、「あんた、車間違えてるよ」と牽制すると、男はマスクをつけて催眠スプレーを振りかけてきました。
ケイシーは恐怖のあまり呆然としますが、ドアにゆっくりと手をかけ、逃走しようとします。
しかしドアが開くと「半ドア」の電子音が鳴り、ケイシーも眠らされてしまうのでした。
目を覚ますとそこは薄暗く、窓もない部屋でした。
パニックになる三人の元へ、坊主の男が度々やってきます。
男は姿を表すたびに人格が変わっており、ケイシーはこの男が「多重人格者」であると見抜きます。
これを利用して何度か脱出を目論みますが、いずれも失敗し3人はバラバラに収容されてしまうことになります。
その頃、精神科医で彼らの監察医であるカレンは、異変を感じ取っていました。
普段主導権を握っているバリーがおらず、バリーのふりをしているデニスが話していると見抜き、事情を聞きます。
するとバリーは正直に話し始めます。
今彼らの中に、新しい存在「ビースト」が生まれようとしており、その覚醒には「汚れた血」が必要だということでした。
主人格であるケビンを守るためにはこれしかないと信じている彼らは止まりません。
カレンは「人間がなれるものには限界がある。ビーストは到底人間の限界を超えている。あり得ない」と説得しようとしますが、聞き入れません。
気になったカレンはその夜、彼らの家を訪ねます。
カレンはそこで、監禁された女の子たちを見てしまいます。
「これは間違っているわ。彼女たちは苦しんでる。犯罪よ」と止めようとしますが、時はすでに遅く、ビーストが目を覚ましてしまいます。
体はひとまわり大きくなり、血管が浮き出、目は充血してゆきます。
カレンは握り殺されてしまいます。クレアとマルシアは喰われてしまいます。
なんとか逃げるケイシーですが、いよいよもうダメかという時、カレンが残した置き手紙を見つけます。
それは「ケヴィン・ウェンデル・クラム」というケヴィンの本名を呼べというものでした。
これによって一時的にケビンを起こし、会話することに成功。
ケビンは2年近く寝ていました。彼は自分のしてしまったことを恐れ、買っておいたショットガンの場所をケイシーに教え、自分を殺してくれと頼みます。
急ぐケイシー。ショットガンの扱いは、狩人の父から教わっていました。
ケイシーは何度もビーストを撃ちますが、ビーストは死にません。
もう終わりかと思ったその時、はだけたケイシーの肌に無数の傷があるのを見つけます。
これは父親亡き後、叔父に引き取られたケイシーが受けてきた虐待の跡でした。
ビーストは「お前は汚れてない!!喜べ!!」と言ってどこかへ消えていきます。
ケイシーはその後警察に保護され、またその叔父の元へと帰っていくのでした。
D.I.D(解離性同一障害)
解離性同一障害とは、いわゆる多重人格のことです。
実際に過去「ビリー・ミリガン」というレイプ犯が存在しており、彼はこの病を患っていました。
裁判の結果は責任能力の欠如による「無罪」。あくまでも犯罪を犯したのは人格の1人であり、その人格は病によって作り出されたものであるとの判断です。
それまで絵空事として信じてこられなかったこの病を、世界に「実在する」と知らしめた有名な事件であることもあり、本作「スプリット」も、よくこのビリーの史実を汲んでいます。
発症の原因
解離性同一障害は、幼少期の壮絶な虐待・いじめ体験から生まれます。
その体験に耐えられなくなった主人格が、逃げ場として別人格を作り出すことによって生まれます。
ビリーは幼少期に継父から挿入を含む性的虐待を受けており、土の中に埋められて呼吸用に刺されたパイプの中に排泄をされたりという経験を持っています。
本作の主人格「ケビン」も、幼少期に母親からキツすぎる躾を受けており、暴力を振るわれています。
こうした経験が、人格の分裂(スプリット)を生んでいるのです。
「照明を得る」
解離性同一障害の患者は、基本的には1人格が出現している間、他の人格は眠っているような状態になります。
これをビリーは「スポットを得る」と表現しており、ずらっと並んだ人格の中央にスポットライトが用意され、そこに立ったものが肉体を得ると説明しています。
そしてこの「ライトを誰に当てるか」は人格内のリーダーが決めているとのことです。
本作においてもこれは「照明」という名前で登場しており、さらに「照明を盗む」という表現も出ています。
これは、許可されていないのに肉体を得ることを指しているようです。
未知の領域
本作が、ビリーなどの史実を逸脱した部分は「ビースト」という人間を超越した存在の登場です。
「人格によって体格も変動する」という史実は存在している(作中でも1人だけ糖尿病でインスリンを注射していた)ものの、人間を超えることはできないとされており、このノンフィクションをフィクションにしたのが本作という理解で間違い無いでしょう。
ビーストに入れ替わった後は肌が硬質化し、ナイフも折れてしまいます。
ショットガンも4発食らっても死なず、その後も出血は止まっていました。
一般人は「寝ているだけ」
本作で最も印象深かったのは、ビーストのこの言葉
「お前らは寝ているだけだ。何も考えていないししていない」という言葉。
多重人格者からすると、我々単一人格者は、他の人格がずっと寝ている状態にあるということ。
なんの辛い経験もしないで、なんとなく生きている我々は、生まれた際に「起きた」人格それだけで生きています。
しかし、気付けていないだけで30人以上の人格がずっと「寝ている」だけだとしたら?
その大量の人格の真ん中のスポットライトに、僕だけがずっと立ち続けているだけだとしたら?
ハッとさせる恐ろしいセリフだと感じました。
まとめ
今回は「スプリット」をレビューしまシタ。
元々多重人格者への興味があることと、そう言った作品が好きなこともあって、とても楽しめました。
加えてシャマラン得意の「不気味な怖さ」を感じる画づくりもgoodで、冒頭の車にぬるっと乗ってくるシーンはマジで怖いです。
ただ、主人公の女の子ケイシーに救いがないことが、悲しい。
現実的で、あえて救いのないようにしているとは思いますが、あまりに可哀想です。
シャマラン作品は元気な時に見ないとダメですね。
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