監督「アルコールの怖さを伝えたくてね」
今回は、もはやジャンル不詳の芸術映画、2018年公開のフランス映画「CLIMAX(クライマックス)」をレビューしマス。
筆者評価は★???(測定不能)
出演:ソフィア・ブテラほか
監督:ギャスパー・ノエ
本作は最近観た映画の中でも、衝撃度具合が尋常じゃありませんでした。
本物のダンサーたちが出演している本作ですが、演技未経験者の集まりとは思えないほどのクオリティ。
人間を人間たらしめている「思考・倫理・規範」の鎖が全て解き放たれた、文字通り地獄のダンスフロア。
あらゆる「枠」を度返しした、超感覚的・芸術的映画です。もはやコメディなのではないかとも思えてきます。
ざっくりあらすじ(ネタバレ)
ダンス公園のため、3日で仕上げなくてはならなくなった22人のダンスメンバーたち。
雪山の奥の廃校を借り、篭りきりで稽古をします。その最終日、バッチリとリハーサルを決めたメンバーは、打ち上げをすることに。
そこではマネージャーのエマニュエルが作った手作りサングリアが振る舞われます。
サングリアを飲みながらそれぞれパーティーを楽しむメンバーたち。
徐々に酔いも回り、テンションが上がってきます。
しかし、どこか様子がおかしい。「酔っているだけ」とは思えない、カオスな状況へと堕ちていきます。
ダンスフロアで放尿をしだす女性メンバー。それを見たセルヴァは、サングリアには何かドラッグが守られていたに違いないと考えるようになります。
サングリアを作ったエマニュエルを問い詰めますが、彼女自身も飲んでおり、錯乱状態でした。
酒が飲めない男性メンバーのオマールに矛先が向き、「酒を飲んでないなら犯人だ」と盛り上がり、極寒の室外に追いやって締め出してしまいます。(これによってオマールは凍死します)
どんどんとエスカレートしていく地獄。
妊娠中の女性メンバーの腹を蹴ったり、自分で堕ろすことを煽り立てたり、女性メンバーの髪に火が引火して燃えたり、それを見て爆笑したり、子供を電気制御室に閉じ込めたり、閉じ込めたのにその鍵を無くしたり、殴り合ったり、罵り合ったり、踊り狂ったり、泣き叫びまくったり、セックスしたり…。とにかくもう、カオス。
朝になるまで続いた狂乱も、みんなのエネルギーが切れて気絶したように眠ることで幕を閉じます。
そこへ警察がやってきて、異様な光景を目の当たりにするのでした。
その頃、メンバーのうちの一人であるプシュケは、自室でLSDを自分の目に目薬のように差すのでした。
「シラフ→泥酔→トランス」のグラデーション
この映画では、カットを使わない「ワンカット撮影法」が使われていたり、なんでもない会話が繰り広げられていたりすることで、徐々に狂っていくグラデーションを理解できます。
酔うことでオープンになったり、よく喋るようになったり、人を叩く時の力がちょっと強くなったり。段々と楽しそうになっていく様子は伺えます。
しかし、明らかに「酔っている以上の状態に入っているな」と分かるのは、みんなの見ている前で放尿をしだしたあたりからです。
この辺りからどんどんと加速度的に狂気に落ちていきます。
廊下では、「髪が燃えて泣き叫ぶ女性の声+妊娠中にも関わらず腹を蹴られた女性の悲鳴と怒号+制御室に閉じ込められた子供の泣き喚く声」が炸裂しまくる、まさにカオスそのもの。
しまいにはそれぞれが幻覚を見出したり、ひたすらセックスに走ったりと、もはやバケモノです。
アルコールとLSDの過剰摂取の「行き着く先」をグラデーションで観ることができます。
LSDとは?
そもそも、本作に登場するドラッグ「LSD」とはどういったものなのでしょうか?
よく映画に登場したり、洋楽の歌詞に出てくるので、その存在は知っていました。
映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でブラピがLSD漬けのタバコを吸ってハイになっていたのは、有名なシーン。
この際なので、LSDとはどういった薬物なのか調べてみます。
■LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)
・無味・無臭・無色の超強力な幻覚剤。
・脳の「物事を捉える分野」を犯す。物が巨大化して見えたり、全く別のものに見えたりする。時間の拡張感覚や、記憶分野へも影響を与える。
・超微量の摂取で強力なトリップ状態になる。
・水に溶かした紙を舌に載せるなどして摂取するケースが多い。
・一回の接種で6~12時間ほど持続する
・長期的に使うと、精神分裂(多重人格)したりする
ざっと調べたところ、LSDは超絶強力な薬物であることがわかりました。
しかも無味・無臭・無色。ヤバすぎる。
だからこそ、サングリアの中に入っていることに気が付かなかったんですね。
しかも少量の摂取で劇的なトリップを起こすようです。
最も気になったのは「長期的に使うと精神分裂を起こすよ」というところ。おそらく、サングリアにLSDを混ぜたであろうプシュケは、多重人格者であった可能性があります。
犯人は「プシュケ」ではない。
多くの映画レビュー・考察・ネタバレ記事で「犯人はプシュケ」と書かれていますが、僕の解釈は「プシュケではない」という解釈になります。
映画冒頭のインタビューでプシュケは薬物について否定的な意見を言っていました。
「昔の同居人が、目にLSDを差し始めた。目薬みたいにね。それから薬物とは距離をおいているの」
この「同居人」とは、同じ部屋に住んでいたという意味ではなく、おそらくプシュケの体の中という意味。
プシュケともう一人のヤク中の人格が、体の中に同居していた。ということでしょう。
ここではその人格をヤクチューとでも呼んでおきます。
そしてプシュケはそんなヤクチューと決別したつもりのようですが、答えはNO。
サングリアにLSDを混入させたのはヤクチューでした。
と、いうことで犯人はプシュケではなく、ヤクチュー。
そもそもプシュケには、一緒に公演を回るダンサーら、DJ、マネージャーを薬漬けにするという動機がありません。
まとめ
今回は、2018年公開のぶっ飛び映画「クライマックス」をレビューしまシタ。
アルコールの恐ろしさを伝えたかったという監督。
確かに飲みすぎてハメを外したり、記憶がなかったりする。みたいなことはわかりますが、LSD漬けにされるのとはまた話が違うような。。。
とはいえ、ドラッグの恐ろしさを啓蒙すると言う意味でもいいかもしれませんね。
ちなみに監督は思春期の少年少女に見てほしいそうですが、皮肉にもR18指定の作品となっています。
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